失敗学のすすめ

(当時)東大教授だった畑村洋太郎氏の本。

「失敗学」というと奇妙な印象を受けるが、要するに失敗というものを隠すのではなく正面から取り扱うことでその後の役に立てましょうという趣旨の学問。学問といっても完全に体系づいているわけではなく、そういう意味で発展途上にある分野といっていいと思う。

私自身が会社勤めだったころの経験や、その後旧軍の戦訓に対する意識の薄さ、反省というフィードバックのループが切れているかに思える有様を知るにつれ、(海外の組織は知らないが)日本の組織は反省しにくい体質にあるのではないか?と考えていたところだったが、この本の内容はまさにそれを分かりやすい言葉で語ってくれたという点で評価したい。

 また、普通は忌み嫌い、どちらかというと触れたくない物として扱われる「失敗事例」を正面から取り扱うことが失敗した当人だけでなく、社会全体にとっても有益であり、創造的な思考を可能にするという一説にも「なるほど」と思ったりもする。

 更に、私が「なるほど」と思ったのは、失敗の研究において客観的なレポートからは本当に生かせる情報があまり得られず、失敗した当人の極めて主観的な報告にこそその後の糧となる情報が含まれているのだという主張である。他にも、論理的であることを重視しすぎる弊害などについても言及しており、この辺は頷くことも多かった。

 後半は創造性育成と絡めた話も多めに入ってくるのでこれまた面白い。

 惜しむらくは、畑村氏とこの本とは無関係ながら、私が会社勤めであったときには周囲に畑村門下生が多く、その割にこの本で指摘されたような失敗を繰り返していたのがなぁー、っていう。